2011年6月21日火曜日

夜な夜な話:パンを踏んだ娘 前編

 昔昔あるところにインゲルという女の子がいました。家が貧乏だったためインゲルは自分の家から離れたお金持ちの家に住み込んで働くことになりました。
インゲルが働き始めた家の奥さんはいい人で優しく接してくれたのでインゲルは毎日機嫌よく働くことができました。
働き始めて一年たった時、奥さんがインゲルに言いました。
「お休みをあげるから久しぶりにお母さんに会っておいで」
しかしインゲルはあの貧しい家にはもう帰りたくないと思っていたので
「いいえ奥様、私はこのままでいいのです」
といいました。
 働き始めて更にもう一年経ちました。また奥さんがいいました。
「会いに行っておやり。お母さんは病気で寝ているそうだよ。」
そういってインゲルにきれいなドレスを着せてやり、お母さんへのお見舞いにと大きなパンをもたせてくれました。
インゲルはめんどくさいと気が進みませんでしたが、きれいなドレスを村のみんなにも見せびらかしてやりたいと思い今度は家に帰ることにしました。
「ふふふ私のきれいな姿をみたらみんなびっくりするわよ」
インゲルはそう思いながら森の道を歩いていきました。あともう少しで家が見えるというとき目の前に大きなぬかるみがあるのを見つけました。
「まあっ。いやだわ。きれいなドレスが泥だらけになってしまうじゃないの。・・・・あ、そうだ、いいこと思いついた!」
インゲルは奥さんが持たせてくれたパンを
「エイッ」
とそのぬかるみに投げ込みました。そのパンの上に靴を乗せてぬかるみを飛び越えようとしたのです。とその時です。
「ぐるぐるぐるぐるぐる~っ。」
ぬかるみが渦を巻き始めました。そしてインゲルを暗い暗い沼の底へと引きずり込んでしまったのです。   つづく

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